最近、違和感を感じるんです
あとがき
新しい部屋には、天井裏に繋がるようなスペースが、一切ないことを、契約前に、何度も、確認した。それでも、念のため、室内カメラは、引っ越した後も、そのまま、使い続けている。もう、必要ないと分かっていても、どうしても、電源を切る気にはなれなかった。
事件は、一応の決着を迎えた。加害者の男は、逮捕され、現在、裁判にかけられている。判決が出れば、また、連絡が来ることになっている。
それでも、時々、ふと、あのノートのことを、思い出すことがある。
最初の記録がつけられた日付は、自分が、最初に牛乳の減りに気づいた日よりも、さらに、一週間ほど前だった。あのノートには、その、潜伏を始めたばかりの時期の記述にも関わらず、こちらの生活習慣について、驚くほど、詳細な内容が、書かれていたという。何時に家を出て、何を買って帰ってくるか、休日は、どこで、何をして過ごすか。まるで、あの部屋に、潜伏を始める、ずっと前から、こちらのことを、すでに、知っていたかのような、そんな精度だ。
警察に、その点について、改めて、尋ねてみたことがある。
担当の警察官は、少し、言葉を選ぶようにしてから、答えてくれた。
「そのあたりは……今回の被害と、直接、関係があるかは、正直、まだ、不明な部分です。本人の供述にも、曖昧なところがあって」
「曖昧、というのは」
「事件当時の細かい経緯について、話が、少し、食い違う部分があるんです。まあ、こちらとしては、事件そのものは、しっかり立証できていますので、そこは、あまり、気にされなくても」
その説明で、一応、納得したふりをした。でも、心のどこかでは、まだ、腑に落ちない部分が、残っていた。
新しい生活は、今のところ、表面上は、平穏に過ぎている。会社にも、いつも通り通ってるし、友人とも、以前と変わらず会っている。
ただ、最近、通勤の途中、ふと誰かの視線を感じることがある。振り返っても、そこには誰もいない。
きっとこれも、気にしすぎの始まりなのかもしれない。
―― 最近、違和感を感じるんです ―― 完