最近、違和感を感じるんです
第十六章:それから
事件が一段落してから、元の部屋には、もう、戻らないと、すぐに、決めた。荷物の運び出しは、業者に依頼し、自分は、極力、あの部屋に、立ち入らずに済むようにした。
新しい部屋を探す際は、これまでとは、比べ物にならないくらい、慎重になった。不動産会社の担当者には、天井裏や、床下収納の構造まで、しつこいくらいに、確認した。点検口の有無、その先の空間の広さ、隣室との仕切りの厚さ。少しでも、人が身を隠せそうな余地がある物件は、候補から、一つずつ、外していった。
担当者には、事情を、詳しくは話さなかったけれど、「とにかく、そういう心配のない部屋がいい」と伝えると、何かを察したように、真剣に、付き合ってくれた。最終的に決めたのは、鉄筋コンクリート造りの、比較的新しいマンションだった。天井裏に、余分な空間がほとんどない構造だと、何度も、確認を取った。
それでも、すぐに、一人で暮らす気には、なかなかなれなかった。新しい部屋が決まってからも、しばらくは、駅前のビジネスホテルに、滞在を続けた。荷物だけを、少しずつ、新居に運び込みながら、夜を過ごす場所は、別に確保しておくという状態が、一ヶ月近く、続いた。
途中からは、大学時代の友人の家に、数日間、泊めてもらったこともあった。友人は、詳しい事情を知って、何も聞かずに、部屋の隅に、布団を敷いてくれた。誰かがそばにいる、というだけで、驚くほど、心が落ち着くことを、そのとき、初めて、実感した。
三ヶ月ほどが経った頃、ようやく、少しずつ、一人の夜にも、慣れ始めていた。新しい部屋で、一人で眠ることが、できるようになっていった。それでも、寝る前には、必ず、クローゼットの中や、収納の奥まで、確認する習慣が、すっかり、身についてしまっていた。