最近、違和感を感じるんです
第十五章:加害者について
逮捕までは、思っていたよりも、時間がかからなかった。ノートに残された指紋と、天井裏に残された残骸から、身元の特定は、比較的、早く進んだらしい。数日後、警察から、連絡があった。
「犯人、確保しました。詳しいことは、また、追ってご説明しますが……ひとまず、ご報告まで」
その一報を聞いたときの気持ちを、うまく、言葉にすることができない。安堵と呼ぶには、あまりにも、重たいものが、胸の中に、居座っていた。
後日、改めて、警察署で、詳しい説明を受けた。捕まったのは、三十代くらいの男で、これまでにも、別の地域で、同じような手口の住居侵入を、複数回、繰り返していた、いわゆる常習犯だったという。
「過去にも、複数の被害者宅で、同じように、天井裏や、床下といった、目につきにくい空間に、長期間、身を潜めていた形跡が、確認されています。今回のように、ノートに、生活の記録をつけていたケースも、他に、いくつか、報告されていますね」
淡々と説明する警察官の言葉を聞きながら、自分だけが、特別に狙われたわけではなかったのだと知って、少しだけ、複雑な気持ちになった。安心していいのか、それとも、こんなことが、他の誰かの身にも、同じように起きていたのかと思うと、余計に、恐ろしくなるべきなのか、判断がつかなかった。
「本人の供述なんですが……」
警察官は、そこで、一度、言葉を切った。それから、少し、言いづらそうに、続けた。
「取り調べに対して、終始、落ち着いた様子で、こう話していたそうです。『気づかれないように、静かに、暮らしていただけです。彼女の生活を、邪魔するつもりはありませんでした』と」
その言葉を聞いた瞬間、腹の底から、冷たいものが、こみ上げてきた。まるで、自分のしてきたことが、迷惑でも、犯罪でもなく、ごくささやかな、つつましい生活の一部であったかのような、その口ぶり。悪びれる様子も、罪悪感らしきものも、そこには、まったく、感じられなかったという。
「加害者の男は、住居侵入と、窃盗の容疑で、送検される予定です。今後、裁判の手続きが進んでいきますので、また、必要な際は、ご連絡させていただきます」
説明を聞き終えて、警察署を出た後も、しばらく、あの供述の言葉が、頭の中で、繰り返し、響いていた。「邪魔するつもりはなかった」という言葉の、あまりの温度差に、恐怖とも、怒りともつかない、複雑な感情が、渦を巻いていた。