最近、違和感を感じるんです
第十四章:ノートの中身
証拠品として、警察署に持ち帰られたノートの中身は、後日、担当の警察官から、改めて、説明を受けることになった。話を聞きながら、何度も、背筋が冷たくなるのを、感じた。
几帳面な、癖のある字で、日付ごとに、細かく、記録がつけられていたという。最初のページには、こう書かれていたらしい。
「今日から、ここで、彼女の生活を、見守ることにする」
その日付は、自分が、最初に牛乳の減りに気づいた日よりも、さらに、一週間ほど前だった。つまり、あの違和感を覚えるよりも前から、すでに、あの空間で、ヤツは、じっと、息を潜めていたことになる。
その後も、記録は、淡々と、続いていた。
「今日は、六時に起きて、七時に出かけた」「今日の帰りは、少し遅かった。誰かと、会っていたのだろうか」「帰りが遅いと思ったら、どうやら酔っぱらっているみたいだ」「休日は、遅くまで、寝ている日が多いようだ」
読んでいるだけで、自分の生活の、ありとあらゆる部分が、その狭い暗闇の中から、じっと、観察され続けていたことが、否応なく、伝わってきた。何を食べたか、何時に帰ってきたか、誰かと電話をしていたかどうか。まるで、生活そのものを、丸ごと、記録されていたようなものだった。
そして、ある一文で、目が、止まった。
「防犯カメラを、設置したようだ。玄関だけのようで、安心した」
その一文を、警察官の口から聞いた瞬間、体温が、一気に、下がった気がした。玄関にカメラを設置したことを、ヤツは、把握していた。それだけでなく、「玄関だけ」で、安心したとまで、書いている。つまり、こちらの対策を、冷静に、観察し、分析していたということになる。
さらに、記録の後半には、こんな一文もあった。
「今夜も、静かに眠っている。起こさないように、気をつけよう」
その言葉を読んで、思わず、吐き気がこみ上げてきた。ヤツにとって、自分は、守るべき対象であり、同時に、決して気づかれてはいけない、観察の対象でしかなかった。あの狭い暗闇の中で、息を潜めながら、毎晩、自分が寝静まるのを待ち、そっと、這い出してきていた。その存在の気配を、これまで、まったく、感じ取れずにいたことが、何より、恐ろしかった。
ノートの記述は、映像に残っていた、あの四日目の夜の、少し前まで、続いていた。それ以降のページは、白紙のままだった。