最近、違和感を感じるんです

第二章:記録をつける

それでも、翌週に入っても、その感覚が、消えなかった。むしろ、日を追うごとに、少しずつ、輪郭がはっきりしていくような気がして、余計に、落ち着かなくなった。

このままでは、自分が、何かおかしいのか、それとも、本当に何かが起きているのか、判断がつかない。そう思って、不安を解消するために、こっそり、家にあるものの量を、記録することにした。

やり方は単純だった。毎朝、出かける前に、冷蔵庫の中の牛乳パックの目盛りを確認して、スマホのメモアプリに、日付と一緒に書き留める。食パンの残り枚数も、数えて記録する。缶ビールの本数、シャンプーとリンスの残量も、目分量で、パーセンテージのような形で、メモしていった。

最初の数日は、特に、これといった変化は見られなかった。牛乳の減り方も、自分が飲んだ分と、ほぼ一致していた。「やっぱり、思い込みだったのかもしれない」と、少し、安心しかけていた。

でも、一週間分の記録が溜まった頃、改めて、数字を並べて見返してみた。

牛乳は、月曜日の朝、目盛りの八割くらいまで入っていたのに、金曜日の時点で、自分が飲んだと記憶している量よりも、明らかに、減りが早かった。食パンも、同様だった。土曜日に八枚入りの新しいものを開けたはずなのに、水曜の朝には、もう、二枚しか残っていなかった。自分一人で、そんなペースでパンを食べる習慣はない。

「誰か、勝手に入ってるんじゃないか」

その考えが、頭に浮かんだ瞬間、背筋が、少し、冷たくなった。

すぐに、玄関の鍵を確認した。ドアの鍵穴にも、こじ開けられたような傷はなく、異常は見当たらなかった。窓も、リビングとベッドスペースの両方、全部、内側から、しっかり鍵がかかっていた。管理会社に確認して、合鍵の貸し出し履歴も聞いてみたが、そんな記録は、一切ないと言われた。

物理的に、誰かが侵入できる余地は、どこにも、見当たらない。それなのに、確かに、何かが、少しずつ、減っている。

その矛盾が、余計に、気味が悪かった。もし、本当に誰かが入っているのだとしたら、一体、どうやって。そして、もし、誰も入っていないのだとしたら、この減っていく違和感は、一体、何なのか。

その夜、部屋の隅々を、もう一度、ゆっくりと見て回った。クローゼットの中、ベッドの下、キッチンの収納棚。特に、変わったところは、見当たらなかった。ただ、いつもより長く、部屋の中を歩き回っている自分に気づいて、少し、苦笑いした。

それでも、その日から、玄関の鍵をかける手つきが、少しだけ、丁寧になった。

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